1. 見合い結婚の伝統とその現実
まず、日本の結婚の歴史を振り返ると、長らく見合い結婚が一般的であった。見合い結婚とは、第三者の仲介によって相手を紹介され、家柄や経済的背景を重視して結婚相手を選ぶ形態の結婚である。日本の見合い結婚は、家族の繁栄や社会的地位の維持・向上のために行われることが多く、結婚において「恋愛」は二次的な要素とされてきた。このような見合い結婚の制度は、家制度が色濃く残っていた時代においては、家族全体の繁栄を重視するものであり、個人の感情や恋愛感情は重視されなかった。
見合い結婚の利点としては、相手の家柄や経済的基盤が安定していることが保証されるため、結婚生活における経済的不安が少ない点が挙げられる。また、仲人など第三者が間に入るため、交際におけるストレスやトラブルを避けることができるというメリットもある。しかし一方で、見合い結婚には「愛のない結婚」「形式的な結婚」という批判もつきまとってきた。結婚が当事者同士の愛情よりも家柄や経済力に基づいて決定されることは、個人の自由や恋愛感情を軽視するものであるという見方が強くなっていった。
2. ロマンチック・ラブへの憧れ
一方、近代以降、日本でも欧米的な「ロマンチック・ラブ」への憧れが広がり始めた。ロマンチック・ラブとは、恋愛感情に基づいた自由な恋愛のことであり、個人の感情や心の繋がりが重視される恋愛観を指す。特に戦後の高度経済成長期以降、経済的な安定が社会全体に広がると、個人の幸福や愛情に基づいた結婚が理想とされるようになり、ロマンチック・ラブへの憧れが強まった。ドラマや映画、小説などの大衆文化においても「純愛」や「運命の出会い」といったテーマが多く取り上げられ、恋愛感情に基づく結婚が理想的なものとして描かれてきた。
このようなロマンチック・ラブへの憧れは、現代の若者たちの結婚観にも大きく影響を与えている。恋愛結婚は、自分自身の感情や相手への愛情に基づいて結婚相手を選ぶことができるため、個人の幸福感や満足感を重視した結婚観が生まれている。その結果、恋愛結婚が一般化し、見合い結婚は「古いもの」「形式的なもの」として見られるようになっていった。
3. 見合い結婚と恋愛結婚の狭間で揺れる現代人
しかし、現代の日本社会では、見合い結婚と恋愛結婚の二つの価値観が共存し、それぞれの利点と欠点が浮き彫りになっている。恋愛結婚は個人の感情や愛情を重視するため、結婚生活の満足感や幸福感が高まりやすい一方で、相手選びの自由度が高いために「理想のパートナー」を見つけることが難しくなっている。特に、現代の若者たちは経済的不安や仕事の多忙さから、恋愛に割く時間やエネルギーを確保することが難しくなり、結婚相手を見つけること自体が一つの大きな課題となっている。
また、恋愛結婚においては恋愛感情が冷めたときに結婚生活の維持が難しくなるという問題もある。ロマンチック・ラブに基づく結婚は、感情に大きく依存するため、感情の変化や相手への不満が離婚の原因となるケースも多い。一方で、見合い結婚は経済的な安定や家族のサポートが得られるため、感情の変化に左右されにくく、結婚生活が長続きする傾向がある。
4. 現代の見合い結婚の形
牛窪恵氏は、見合い結婚の現実とロマンチック・ラブへの憧れの間で揺れ動く現代人の心理を見据えながら、現代の見合い結婚の新しい形についても考察している。従来の見合い結婚は、家族や仲人が主導して相手を選ぶ形式であったが、現代ではインターネットの普及や結婚相談所のサービス向上により、個人の意思を尊重した「新しい見合い結婚」のスタイルが登場している。これにより、見合い結婚であっても、相手とのコミュニケーションや恋愛感情を重視することが可能となり、見合い結婚と恋愛結婚の良いところを融合させた新しい結婚の形が生まれている。
また、現代の見合い結婚では、婚活パーティーやマッチングアプリを利用した「お見合い」が主流となり、よりカジュアルで柔軟な出会いの場が提供されている。このような新しい見合い結婚は、恋愛感情を重視しつつも、結婚に対する現実的な視点や安定を求める現代人のニーズに応えるものであり、見合い結婚の新たな可能性を示している。
5. ロマンチック・ラブと見合い結婚の融合
牛窪氏の視点から見ると、見合い結婚とロマンチック・ラブは対立するものではなく、互いに補完し合う関係にあると考えられる。見合い結婚は、経済的な安定や家族のサポートといった現実的な要素を提供し、ロマンチック・ラブは、恋愛感情や心の繋がりといった情緒的な要素を提供する。したがって、結婚においては、見合い結婚の現実とロマンチック・ラブへの憧れのバランスを取ることが重要であり、どちらか一方に偏るのではなく、両者をうまく組み合わせることが、現代の結婚における新しいスタイルとなり得る。
現代の見合い結婚は、恋愛感情や個人の幸福を重視しつつも、結婚生活の安定や家族のサポートを求めるものであり、ロマンチック・ラブと見合い結婚の融合によって、新しい結婚観や恋愛観が生まれている。このような見合い結婚の新しいスタイルは、現代人が抱える結婚に対する不安や葛藤を解消し、より柔軟で幸福な結婚生活を実現するための一つの解決策となり得る。