個人の恋愛感情より幸福な家庭が優先される友愛結婚について

2024.09.22

ショパン・マリアージュ

結婚は、個人の生活だけでなく、社会全体に多大な影響を与える重要な制度です。社会の構造や価値観が変化する中で、結婚のあり方もまた多様化しています。近代以降、特に西洋社会ではロマンチック・ラブが結婚の基盤として広く普及しましたが、それに対して家族の幸福や社会的安定を優先する結婚形態も依然として存在しています。いわゆる「友愛結婚（companionate marriage）」は、その一つの例であり、個人の恋愛感情や一時的な情熱よりも、夫婦間の友情や信頼、協力を重視し、家族全体の幸福と安定を目指す結婚形態です。
本論では、友愛結婚の社会学的意義とその背景、またその特徴や現代における課題について考察していきます。友愛結婚は、ロマンチック・ラブが強調される現代においてどのような役割を果たしているのか、またそれが社会全体にどのような影響を与えているのかを明らかにし、結婚制度の多様性を再評価することを目的とします。

1. 友愛結婚の定義と特徴

友愛結婚は、夫婦間の恋愛感情や情熱を中心とするのではなく、友情や信頼、相互の尊重に基づいて構築される結婚形態です。この形態では、夫婦が共に生活を営み、協力し合うことで、家庭全体の安定と幸福を目指します。夫婦の関係は、長期的なパートナーシップとして位置づけられ、互いの成長や生活を支える役割が重視されます。

友愛結婚においては、次のような特徴が見られます。

友情と信頼の重視: 夫婦間の関係は、一時的な感情や情熱に左右されるものではなく、長期的な信頼と友情に基づいて築かれます。夫婦は、互いの弱さや欠点を理解し、それを受け入れた上で協力して生活を続ける姿勢を持ちます。
家族全体の幸福を優先: 個人の恋愛感情よりも、家族全体の幸福や安定を優先する考え方が特徴的です。夫婦間の協力が家族の基盤となり、子供や親族との関係も含めた広い意味での家庭の幸福が目指されます。
経済的安定と社会的役割の共有: 結婚は、単なる個人的な関係を超えた社会的役割を持ちます。夫婦は、経済的な協力や家事、育児の分担を通じて、家庭の維持と成長を目指します。このような結婚形態では、夫婦が共に家庭の運営に責任を持つことが求められます。

友愛結婚は、近代以前の結婚観に基づく部分もあり、ロマンチック・ラブに依存する結婚観に対する一つの対抗軸として機能しています。この形態は、夫婦関係が恋愛に依存するだけではなく、友情や協力といった持続可能な要素に基づくことで、結婚生活の安定を図る手段となっているのです。

2. 友愛結婚の歴史的背景と社会的役割

友愛結婚の考え方は、近代の家庭観において新しいものではありません。産業革命以前の社会では、結婚は経済的・社会的な要請に応じた家族単位の経済協力体として機能していました。夫婦は、互いに家庭を維持するために協力し、親族や共同体と共に生きることが当然視されていたのです。

産業革命とともに家族形態が変化する中で、家庭の役割も変わり始めました。特に、都市化と労働市場の発展に伴い、個人の自由や自立が強調されるようになりました。これにより、夫婦の関係も恋愛や感情を基盤とするものに変化していきましたが、その一方で家族全体の経済的安定や社会的役割は依然として重要視され続けていました。

特に19世紀後半から20世紀初頭にかけて、西洋社会では「友愛結婚」という概念が注目され始めました。これは、夫婦が互いに友人として協力し合い、家庭を築くという考え方が強調され、ロマンチック・ラブからの脱却を試みるものでした。社会学者であるエリザベス・ベック＝ガーンシャイム（Elisabeth Beck-Gernsheim）は、現代においても結婚が社会的・経済的な役割を果たすことを指摘し、友愛結婚の重要性を強調しています。彼女は、結婚が個人の選択であると同時に、家族全体の幸福と社会的な結束を維持するための制度であると述べています。

3. ロマンチック・ラブとの対立と共存

友愛結婚とロマンチック・ラブは、しばしば対立する結婚観として語られます。ロマンチック・ラブは、個人の感情や情熱に基づく結婚であり、夫婦間の愛情や情熱が結婚の成功の鍵とされます。これは特に20世紀以降の西洋社会で強調されるようになり、映画や文学、メディアを通じて広く普及しました。

一方で、友愛結婚は、長期的なパートナーシップとしての結婚を重視し、一時的な感情の変動に左右されない安定した関係を目指します。ロマンチック・ラブにおいては、夫婦間の感情が冷めることで離婚や別居に至るケースが増加していますが、友愛結婚は、感情だけでなく夫婦の協力や信頼を基盤とするため、関係が破綻しにくいとされています。

このような観点から、友愛結婚はロマンチック・ラブとは異なる結婚観を提示しつつも、現代においてはこれらが共存可能であることも示唆されています。友愛結婚においても、感情的な絆が全く存在しないわけではなく、恋愛感情が友情や信頼へと成熟していくプロセスが重要視されることがあります。つまり、恋愛感情が結婚の最初のきっかけであっても、結婚生活を維持するためには、友情や協力といった持続的な要素が必要不可欠であるという考え方です。

4. 現代社会における友愛結婚の意義

現代社会において、友愛結婚が注目される理由の一つは、結婚における安定性や家族の幸福が再評価されている点です。経済的な不安定さや個人主義の進展に伴い、恋愛感情に基づく結婚が不安定化する一方で、夫婦間の協力や信頼に基づく結婚が見直される傾向が強まっています。

特に、共働き家庭が増加し、夫婦が共に家事や育児を分担する必要が生じている現代では、友愛結婚の概念が非常に有効です。夫婦が互いにサポートし合い、家族全体の幸福を追求することで、家庭の経済的・精神的な安定が保たれるとされています。また、夫婦が協力して家族を支えることで、子供たちにも安定した環境が提供され、子供の成長や教育においても良い影響を与えることが期待されています。

友愛結婚のもう一つの重要な意義は、ジェンダー平等の進展に伴う家族観の変化です。従来の家父長制的な家庭観では、夫が外で働き、妻が家を守るという役割分担が一般的でしたが、現代では夫婦が共に家庭の運営に関与することが求められています。この点において、友愛結婚は夫婦が対等な関係を築き、家事や育児、仕事を分担することが可能な結婚形態として支持されています。

5. 友愛結婚における家族の役割と社会的影響

友愛結婚では、家族全体の幸福や安定が強調されるため、家族の役割が非常に重要です。家族は、夫婦間の信頼や協力を支える基盤であり、特に親族や子供たちとの関係が結婚生活において大きな影響を与えます。

　家族の役割は、友愛結婚において中心的な位置を占めており、夫婦間の安定した関係を築くだけでなく、家庭全体の幸福を維持するための重要な要素です。友愛結婚では、夫婦が互いに協力して家庭を支えることが期待される一方で、家族全体が生活の中で重要な役割を果たします。特に子供の養育や世代間のサポートといった側面において、友愛結婚は強固な家族単位を形成し、その安定性が家庭内だけでなく社会全体に及ぼす影響は大きいです。

5.1 子供の養育と教育における友愛結婚の影響

友愛結婚の一つの大きな特徴は、子供の養育や教育において夫婦が協力することが期待される点です。現代では、単なる経済的な支援だけでなく、子供の感情的なサポートや教育方針の一致、そして生活習慣の共有といった面でも、夫婦が協力して子供を育てる必要が高まっています。友愛結婚では、夫婦が協力し合い、共に責任を持って子供を育てることで、子供に安定した家庭環境を提供し、その成長と発達を促進します。

加えて、家族全体が子供の成長に関与することで、子供は家庭の一員としての自覚を持ち、家族の価値観を受け継ぎながら社会に適応することができます。こうしたプロセスは、社会の安定や持続可能性を保つために不可欠であり、友愛結婚はそのような家庭の価値を強化するものとして評価されています。

5.2 世代間のサポートと社会的資本の形成

友愛結婚におけるもう一つの重要な要素は、親族や世代間のサポートです。友愛結婚の枠組みでは、夫婦だけでなく親や兄弟姉妹といった広い家族のサポートも家庭生活において重要な役割を果たします。特に高齢化社会においては、親世代が子世代に対して経済的な援助や育児サポートを提供するだけでなく、逆に子世代が高齢の親を支援することも求められます。

このような世代間のサポートは、社会学者のピエール・ブルデューが提唱した「社会的資本」の概念にも関連します。社会的資本とは、個人が社会的ネットワークを通じて得る資源や信頼のことを指します。友愛結婚においては、夫婦が親族やコミュニティと協力することで、社会的資本を形成し、それが家庭の安定や幸福に寄与するのです。

また、友愛結婚は、家族のつながりを強化し、夫婦や親族が互いにサポートし合うことで、家庭の内外において社会的な安定をもたらす役割を果たしています。このような家庭の安定性は、地域社会やコミュニティ全体の結束を強め、結果として社会全体の安定と繁栄に寄与するものとなります。

5.3 社会的影響と結婚の再評価

友愛結婚は、社会全体に対しても重要な影響を及ぼします。特に、個人主義や孤立化が進行する現代社会において、家族の協力や支え合いの価値が再評価されつつあります。友愛結婚のような結婚形態は、夫婦が相互に支援し、家族全体で安定した生活を送ることができるため、個人の精神的な安定感や幸福感を高めるだけでなく、社会全体の安定や安全にもつながります。

また、経済的な安定や子供の養育、社会的なサポートネットワークの強化は、国家や社会の福祉政策にも影響を与える要因となります。友愛結婚が普及することで、家庭が自立し、社会的なセーフティネットとしての役割を果たす可能性が高まります。これにより、国家が提供する福祉サービスの負担が軽減されると同時に、地域社会やコミュニティの結束が強化され、社会全体の持続可能性が向上することが期待されます。

6. 現代における友愛結婚の課題と挑戦

友愛結婚は、家庭や社会に多くの利点をもたらす一方で、現代においていくつかの課題にも直面しています。特に、個人主義や自由主義の進展に伴い、夫婦が結婚に求めるものが変化している点や、経済的・社会的な変動によって家庭の安定が脅かされる状況に直面することが多くなっています。

6.1 個人主義の進展と夫婦間の期待の変化

現代においては、個人主義の進展に伴い、結婚に対する考え方が大きく変わってきています。特に若い世代の間では、結婚が個人の幸福や自己実現の手段として強く意識されており、夫婦間の関係も互いに高い期待が寄せられることが多くなっています。これは友愛結婚においても同様であり、夫婦が互いに協力し合うことが前提とされている一方で、個人の自由や自己実現を尊重する必要性も生じています。

このような状況においては、友愛結婚の持続的な安定を維持するために、夫婦が互いにどのような期待を持ち、それにどのように応えられるかが重要な課題となります。夫婦間の期待が過度に高まると、結婚生活において不満や摩擦が生じやすくなり、結果として家庭の安定が脅かされる可能性があります。

6.2 経済的・社会的な変動への対応

現代社会における経済的・社会的な変動もまた、友愛結婚にとって大きな課題です。特に、グローバル化や労働市場の変動によって経済的な不安定さが増す中で、夫婦が共に家庭を支えるためには、経済的な協力がますます重要な要素となっています。友愛結婚においては、夫婦が共に働き、経済的に家庭を支えることが期待される一方で、働き方の多様化やライフスタイルの変化が家庭の安定に影響を与えることも少なくありません。

また、社会的な役割の変化も友愛結婚に影響を与えます。例えば、女性の社会進出が進む中で、従来の家庭内での役割分担が変わりつつあります。これにより、夫婦間での家事や育児の分担、さらにはキャリアの追求と家庭生活とのバランスが大きな課題となります。このような変化に対して、夫婦がどのように協力して対応するかが、友愛結婚の成功にとって鍵となります。

6.3 友愛結婚とロマンチック・ラブの共存

友愛結婚はロマンチック・ラブとは異なる結婚観を持ちながらも、現代社会においては両者が共存する可能性が模索されています。夫婦が恋愛感情に基づいて結婚する場合であっても、その後の結婚生活において友情や協力、信頼が重要な役割を果たすことは明らかです。したがって、友愛結婚は、恋愛に基づく結婚生活の成熟した形態として位置づけられることもあります。

友愛結婚が持続可能な結婚形態として普及するためには、夫婦が互いに感情的な絆を維持しながらも、日常生活における協力や信頼を築き上げることが重要です。このような形態は、ロマンチック・ラブの理想と友愛結婚の現実を統合するものであり、現代における多様な結婚観を反映しています。