1. 「婚活時代」とは何か
2008年に出版された共著『「婚活」時代』は、日本社会に「婚活」という言葉を広めました。山田昌弘教授と白河桃子氏によるこの著作は、現代日本における結婚のあり方が変化していることを指摘し、その過程で生まれた「婚活」という現象を解明する試みです。彼らは、結婚がもはや自然と訪れるものではなく、積極的な努力を伴う「活動」として捉えられる時代に入ったと主張しています。
「婚活」は「就職活動」になぞらえられ、結婚を目指すために計画的に努力することを指します。この背景には、未婚率の上昇、晩婚化、経済的な不安定さ、そしてライフスタイルや価値観の多様化が挙げられます。かつては、結婚は人生の自然な節目であり、家族やコミュニティの中でお見合いや紹介を通じて行われるものでした。しかし、都市化や核家族化、労働市場の変化が進む中で、結婚相手を見つけることが個人の責任となり、その結果として「婚活」という行動が必要とされるようになりました。
2. 経済的要因と婚活
山田昌弘教授は、結婚を巡る現代の課題を経済的な観点から分析しています。彼は、日本における非婚化や晩婚化の要因として、特に経済的不安定さを挙げています。1990年代以降、日本はバブル経済崩壊の影響を受け、長期的な経済停滞期に入りました。これに伴い、雇用の不安定さや賃金の低迷が深刻化し、特に若年層において正規雇用が減少しました。山田教授は、このような経済的背景が結婚を遅らせ、あるいは結婚を断念させる一因となっていると指摘しています。
山田教授が提唱した「パラサイト・シングル」の概念は、経済的に自立できない成人子供が親と同居し、結婚を先送りにする現象を指します。彼は、経済的な理由から親に依存する若者たちが結婚に踏み切れず、結果として晩婚化や未婚率の上昇を助長していると述べています。特に、男性の経済力が結婚における重要な要素となっているため、収入が不安定な男性は結婚市場で不利な立場に立たされる傾向があります。
3. 婚活市場の拡大とその影響
「婚活」という概念が社会に広まるにつれ、結婚相手を探すための市場が急速に拡大しました。結婚相談所、婚活パーティー、オンラインマッチングアプリといったサービスが増加し、それに伴い、結婚はもはや「自然な出会い」ではなく、サービスを利用して計画的に進めるものとなりました。
白河桃子氏は、特に女性の視点から婚活市場の重要性を強調しています。彼女は、女性がキャリアを追求する中で、婚期を逃してしまうリスクについて警鐘を鳴らしています。女性がある程度の年齢を過ぎると、出産のタイムリミットや結婚相手の選択肢が減少することが現実問題として存在しており、このリスクを避けるためには早めに婚活を始めることが重要だと述べています。彼女はこれを「婚活リスク」と呼び、特に30代後半以降の女性が婚活を始める際の厳しさを強調しています。
一方で、婚活市場の拡大は、結婚に対する個人の期待値を上げる結果にもなっています。山田教授は、婚活市場において「理想の相手」を追求しすぎることが、かえって結婚を難しくする要因になる可能性があると指摘しています。婚活市場では、多くの選択肢が提供される一方で、結婚相手に求める条件が高くなりすぎると、結果として結婚が成立しにくくなるという現象が見られます。
4. 結婚の「格差化」
山田教授は、現代日本における結婚の状況を「格差社会」の一部として捉えています。特に、経済的な安定が結婚の成否を左右する大きな要因であることを指摘し、結婚が「経済的余裕のある人だけができるもの」として格差が広がっていることを問題視しています。
結婚における格差は、主に経済的な面において現れています。正規雇用の男性は結婚しやすい一方、非正規雇用や低収入の男性は結婚相手を見つけるのが難しいという現実があります。これは、女性が結婚相手に対して経済的な安定を求める傾向が強まっているためです。また、女性も経済的に自立している場合、結婚に対する必要性が低くなり、結婚を選ばないケースが増えています。
このような結婚格差は、社会全体の格差をさらに拡大させる可能性があります。結婚し、家庭を持つことができる人々は、安定した生活基盤を築きやすく、子供を持つことで次世代に富を継承することが可能です。一方で、結婚できない人々は、経済的に困難な状況に陥りやすく、その結果として社会的な格差が固定化されていく恐れがあります。
5. 女性の社会進出と婚活
白河氏は、特に女性の社会進出と婚活の関係に注目しています。彼女は、女性がキャリアを追求する中で、結婚や出産のタイミングが遅れる傾向にあることを指摘しています。女性が社会的に成功を収め、経済的に自立することで、結婚に対する依存度が低くなり、結果として結婚を急ぐ必要がなくなる現象が見られます。
しかし、白河氏は同時に、女性が結婚を望む場合には早めに婚活を始めることが重要であるとも述べています。特に、女性が30代後半以降に婚活を始めると、出産のタイムリミットが迫る中で結婚相手を見つけるのが難しくなるため、キャリアと家庭の両立を目指す場合には計画的に婚活を行うことが求められます。
6. 婚活と自己実現
山田昌弘教授と白河桃子氏は、「婚活」が単なる結婚相手を見つける活動ではなく、自己実現の一環として捉えるべきだという視点を持っています。結婚は個人の人生における大きな選択肢の一つであり、その選択を通じて自己を再確認し、どのような人生を歩みたいかを見つめ直す機会となるべきだとしています。
白河氏は特に、婚活が自己実現の一環として有意義なプロセスであることを強調しています。彼女は、婚活を通じて自分自身の価値観やライフスタイルを見つめ直し、最終的には自分に合ったパートナーと結ばれることが重要だと述べています。婚活が成功するかどうかは単に相手を見つけることだけでなく、自分がどのような人生を歩みたいのかを考え、それに合った相手を見つける過程であるとされています。
7. 政策的な対応の必要性
山田教授と白河氏は、婚活が個人の努力に依存しすぎている現状を改善するためには、政府や企業による政策的な支援が必要であると強調しています。