1. 結婚市場の変化と婚活の社会的背景
山田昌弘は、現代社会における結婚や家庭の変化を多角的に捉えています。特に、彼が論じる「パラサイト・シングル」や「未婚化」「晩婚化」の現象は、結婚市場の構造変化と密接に関連しています。
伝統的な結婚は、恋愛感情だけではなく、経済的・社会的な安定のための結びつきとされてきました。しかし、20世紀後半からの急速な経済成長、女性の社会進出、教育水準の向上などにより、結婚に求められる条件や期待が多様化しました。従来の「男性は稼ぎ手、女性は家庭を守る」という性別役割分担が崩壊しつつある中で、結婚は選択肢の一つとなり、結婚市場は大きな変化を迎えました。
こうした中、結婚を望む人々は、従来の友人や親族を通じた出会いの機会が減少する一方で、新たな出会いの場を求めるようになり、これが「婚活」という形で明確化されました。婚活は、結婚を目指した意識的な活動として、市場活動に似た側面を持っています。出会いの場が増え、またインターネットやアプリの普及により、個人が自らの市場価値をアピールし、より好ましいパートナーを見つけようとする傾向が強まっているのです。
2. 婚活のマーケティング的視点
マーケティングの視点から見ると、婚活は「自分の商品化」と「他者の選択」という二つの要素が含まれています。ここで重要なのは、「自分をいかに魅力的に見せるか」「相手がどのような条件を重視するか」という点です。
マーケティングにおいて、自分の商品価値を高めるためには、まずターゲット層を明確にし、それに応じた戦略を取る必要があります。婚活においても、どのようなパートナーを求めているのか、そして自分がどの層にアピールしたいのかを理解し、それに見合った自己プロデュースが求められます。例えば、自己紹介文の作成や写真の選択、さらには職業や年収などの情報提示において、どのように自分を「商品」としてアピールするかが婚活の成功に直結するのです。
この点について山田昌弘は、結婚における「市場価値」の概念を指摘しています。男性が経済力を、女性が若さや容姿を重要視される傾向は依然として強いものの、現代ではこれらの価値基準が多様化していることも無視できません。つまり、結婚市場において、どのような価値が求められているのか、また自分がそれにどう応えるべきかを意識した上で行動することが必要とされています。
3. 婚活ビジネスの台頭
婚活の市場化が進む中で、婚活ビジネスが急成長しています。山田昌弘は、こうしたビジネスが持つ社会的な役割にも注目しています。従来、結婚は個人の家族や地域社会が関与する私的なものとされていましたが、現代では結婚相談所やマッチングアプリなど、プロフェッショナルな介在者が大きな役割を果たすようになりました。
婚活ビジネスは、単に出会いの場を提供するだけでなく、個々のニーズに応じたカウンセリングやコーチング、さらにはマッチングアルゴリズムを活用した効率的なパートナー探しの支援を行っています。これにより、結婚に至るまでのプロセスがより「合理的」かつ「効率的」になっているのです。
一方で、婚活ビジネスの拡大は、結婚が「消費」の対象となり得る側面も強調します。結婚式や新婚旅行といった消費活動はもちろんのこと、出会い自体も有料のサービスとして提供されるようになり、結婚にかかるコストが高まることが懸念されています。山田昌弘は、このような婚活市場の商業化が、結婚の本質を変質させる可能性についても警鐘を鳴らしています。
4. 結婚に対する意識の変化と婚活の課題
山田昌弘が指摘するもう一つの重要な点は、結婚に対する意識の変化です。かつての結婚は、家庭を築き、子どもを育てるという社会的・文化的役割が強調されていました。しかし、現代においては、個人の幸福や充実感が優先されるようになり、結婚が必ずしも人生の最終目標とはみなされなくなってきています。
特に若年層において、結婚や家庭を築くことに対する関心が低下していることは、婚活市場にも影響を与えています。婚活に参加する層は、ある程度結婚に前向きな姿勢を持つものの、その中でさえも、パートナーに対する条件や理想が高まり、出会いがなかなか成就しないケースが増えています。この「結婚難民」の増加は、婚活市場の競争を一層激化させ、さらに婚活がマーケティング的視点からも厳しい戦いとなっている現状を反映しています。
5. 山田昌弘の視点から見た未来展望
山田昌弘は、結婚市場や婚活が今後どのように発展していくのかについても考察を深めています。少子高齢化が進行する中で、政府や自治体は婚活を推進する施策を講じており、婚活支援の公的な取り組みも増加しています。しかし、こうした政策的介入がどれほど効果を持つかについては懐疑的な視点もあります。
さらに、AIやデータ解析の進化により、将来的にはパートナー探しの効率がさらに向上する可能性がありますが、その一方で「恋愛」や「運命」といった要素が失われる懸念もあります。山田昌弘は、結婚が単なる市場活動として消費されるのではなく、人間関係や感情の重要性が再認識されるべきだとしています。
6. 結論
山田昌弘の立場から見ると、婚活は現代社会において極めて複雑な現象であり、単なる出会いの活動以上の意味を持っています。結婚市場の変化、婚活ビジネスの台頭、結婚に対する意識の変化など、様々な要素が絡み合いながら、個人の人生や社会全体に影響を及ぼしています。
「マーケティング婚活論」という視点からは、個人が結婚市場において自分をどのようにプロデュースし、パートナーを探すかが重要であり、そのプロセスにはマーケティング的な戦略が不可欠です。しかし、山田昌弘は、結婚が単なる取引や消費活動に終わらず、感情や人間関係が中心にあるべきであることを強調しています。